ニュースの概要

シオノギ製薬は2027年度から定年を60歳から65歳へ引き上げ、65歳を超えても一定の条件を満たす人を正社員として雇い続ける制度を導入します。背景には、医薬品の研究開発や営業、品質管理で経験を持つ人材を確保しにくくなっている事情があります。日本では65歳以上の人口が全体の約3割に達し、医療や介護の需要は増える一方です。今回の方針は、退職年齢を延ばすだけでなく、高齢者をサービスの利用者と担い手の両面で捉え直す動きといえます。遠隔医療や介護ロボットの普及にも、現場を知る熟練者の知見が欠かせません。

引用元: シオノギ製薬、65歳以上も正規雇用へ 深刻な人手不足に対応(Nikkei / SBS News)

分析・見解

60歳定年の見直しが製薬現場の知識流出を抑える

製薬会社では、薬の成分知識だけでなく、治験先との調整、規制当局への説明、医療機関との信頼関係が成果を左右します。これらは短期間の研修で置き換えにくく、担当者の退職と同時に失われると、後任の育成に数年かかることもあります。定年を65歳へ延ばすことは、採用人数を増やす施策というより、長年かけて蓄積した判断力を社内に残す施策です。

ただし、単純に在籍期間を延ばせば効果が出るわけではありません。年齢によって体力や希望する働き方は変わります。研究、品質保証、教育、顧客対応など、経験を生かしやすい役割へ仕事を組み替える必要があります。役職や給与を一律に維持するのではなく、責任の範囲と勤務時間を調整する設計が成否を分けます。

高齢人材は医療機器と介護技術の改善役になり得る

高齢者を人手不足の穴埋めとしてだけ見ると、制度は長続きしません。実際には、利用者に近い年齢の社員が製品評価や業務設計に関わることで、操作の分かりにくさや現場の負担を見つけやすくなります。例えば、服薬支援の機器では、画面の文字の大きさ、通知音の聞き取りやすさ、家族への連絡方法が利用継続を左右します。高齢の社員が自分の感覚や同世代の声を開発部門へ戻せば、技術の完成度だけでなく、使われ続ける可能性も高まります。

介護ロボットでも同じです。導入を決めるのは経営者でも、毎日操作するのは介護職員です。機器を使う手順が一つ増えるだけで現場に定着しない場合があります。医療や介護の経験者を試験導入の担当に置き、実際の動線や記録作業まで確認する仕組みが必要です。高齢人材は、利用者と現場の間をつなぐ翻訳役になれます。

遠隔医療の普及には技術より運用を知る人が必要になる

遠隔医療は、診療予約、本人確認、通信環境、検査結果の共有、対面診療への切り替えまでを一つの流れとして設計しなければなりません。画面をつなぐだけでは、患者が薬の受け取り方を理解できなかったり、医師が生活の変化を見落としたりします。医療機関や患者の不安を知る熟練者が運用づくりに加わると、技術導入の失敗を早期に見つけられます。

ここで重要なのは、高齢社員をデジタルに不慣れな存在と決めつけないことです。長年の業務知識に、新しい道具の使い方を組み合わせれば、若手には見えにくい危険を指摘できます。一方で、端末操作や情報管理の研修は必須です。経験を尊重しながら、全員が同じ安全基準で働ける教育を用意しなければなりません。

雇用延長を競争力に変えるには世代間の役割再設計が要る

65歳以上の正社員化は、年齢差別を減らすだけの制度ではありません。若手にとっては昇進の機会が遅れる懸念があり、管理職のポストや評価方法を見直さなければ不満が蓄積します。ベテランを管理職に残すのではなく、専門職、相談役、教育担当、顧客課題の分析担当など複数の道を用意することが現実的です。

今後は、雇用の長期化と技術活用を別々に考えない企業が強くなります。高齢社員の知識を記録し、遠隔勤務や支援機器で身体的負担を減らし、若手が新しい手法を持ち込む。この循環ができれば、人手不足への対応と製品改善を同時に進められます。シオノギの判断は、定年制度の変更というより、経験を事業資産として再配置する試みと見るべきです。

ビジネスへの影響

採用数より先に、65歳以降の仕事を細かく設計する

企業が同様の制度を検討する際は、まず高齢社員に任せる業務を職種ごとに洗い出すべきです。顧客との関係維持や新人教育は経験が生きやすい一方、夜勤、長時間の移動、重い物を扱う作業は負担が大きくなります。勤務日数、時間、勤務地、責任範囲を複数の型に分け、本人が選べるようにすると、雇用延長が実質的な我慢比べになりません。

評価も年齢ではなく役割で決める必要があります。売上だけでなく、後任の育成期間を短縮したか、事故や手戻りを減らしたか、顧客の継続利用に貢献したかを指標に加えると、ベテランの価値を測りやすくなります。人件費の増加だけを見るのではなく、採用費、教育費、退職による知識損失と比較して判断することが重要です。

技術導入は高齢社員を含む現場検証から始める

遠隔医療、服薬支援機器、介護ロボットを導入する企業は、機器の性能比較だけで選ばないことが大切です。高齢社員、若手職員、利用者、家族を含む小規模な試験運用を行い、操作時間、入力ミス、問い合わせ件数、現場の残業時間を測定します。導入前後で数字を比べれば、便利そうだという印象に流されず、費用対効果を判断できます。

特に、経験者を機器の評価担当や利用者向け説明役に置くと、導入後の抵抗を抑えやすくなります。企業は高齢社員を守る対象に限定せず、技術を現場へ定着させる実務者として位置づけるべきです。個人情報を扱う医療分野では、端末の共有方法、記録の保存期間、緊急時の連絡経路も導入時に決めておく必要があります。

制度変更の効果を採用力と事業開発に結び付ける

定年延長を社内制度の告知だけで終わらせず、採用広報や取引先への提案材料として活用する余地があります。働く期間を自分で設計できる会社は、子育てや介護と両立したい世代にも魅力が伝わります。また、幅広い年齢の社員が製品開発に関わる体制は、高齢者向け市場での信頼にもつながります。

経営会議では、在籍率や採用人数だけでなく、継承できた業務知識、技術導入の定着率、利用者満足度を四半期ごとに確認するとよいでしょう。制度が形だけになっていないかを早期に把握でき、必要なら職務内容や研修を修正できます。

関連記事

[PR]