ニュースの概要
近畿経済産業局が、医療機器の開発を後押しする取り組みを紹介しています。医療機器は、優れた技術を作るだけでは製品化できず、医療従事者の課題把握、臨床現場での検証、安全性の確認、承認申請、販売後の運用までを一体で設計する必要があります。今回の情報は、研究機関や企業が単独で開発を進めるのではなく、医療機関や支援機関と早期に接点を持ち、実用化までの壁を越えることの重要性を示すものです。高齢化や医療人材不足を背景に、診断支援、在宅医療、手術支援などの需要は広がっており、地域の技術を医療の成果へ結び付ける仕組みが問われています。
引用元: 医療機器分野:医療機器開発の推進(kansai.meti.go.jp)
分析・見解
技術力より「現場が使えるか」で成否が決まる
医療機器開発で最も見落とされやすいのは、技術の新規性と製品の価値が同じではないという点です。研究室で高精度に動くセンサーや画像解析技術も、診療の流れを止める、消毒に時間がかかる、記録入力が増える、保守担当者がいないといった問題があれば、現場では採用されません。反対に、既存機器に小さな改良を加え、看護師の確認作業を一日数分減らす製品は、導入効果を説明しやすく、継続利用にもつながります。開発支援の意義は、資金を供給することだけでなく、この現場とのずれを早い段階で修正できる点にあります。
医療機器は開発・規制・病院予算という三つの時間軸で動く
医療機器には、一般的な製造業とは異なる三つの時間軸があります。第一は技術開発の時間軸、第二は安全性や有効性を確認する規制対応の時間軸、第三は医療機関が予算を確保し、診療報酬や保険償還を含む採算を判断する時間軸です。研究開発部門が第一だけを見ていると、試作品は完成しても、申請に必要なデータや販売後の管理体制が不足します。特に、人工知能を用いた診断支援や遠隔監視機器では、ソフトウエアの更新によって性能が変わるため、初回出荷時の検査だけでなく、変更内容の記録や管理(=変更管理)、ログ保存、誤判定時の責任分担まで考えなければなりません。
医師・看護師と共同開発し、関西の産業集積を強みに変える
ここで重要になるのが、医療機関を単なる実験場所ではなく、共同開発者として位置付ける発想です。医師には診断上の不便を、看護師には作業負担を、臨床工学技士には保守上の懸念を聞き分ける必要があります。同じ「使いにくい」という言葉でも、操作画面の問題なのか、設置場所の問題なのか、院内の承認手続きの問題なのかで解決策は変わります。例えば在宅向けの測定機器なら、測定精度だけでなく、患者が一人で装着できるか、通信が切れた際に再送できるか、医療者が異常値を確認する時間を確保できるかまで評価対象になります。
海外の大手企業と比べたとき、国内企業が勝ちやすいのは、地域の医療現場に密着した細かな改善です。大量生産と価格競争では規模の差が出ますが、特定診療科の業務に合わせた機器、病院の既存設備と接続しやすい製品、導入後の教育まで含む運用設計では、現場との距離が強みになります。関西には、精密加工、素材、計測、製薬、大学病院などが集積しており、部品技術を完成品の医療価値へ翻訳する連携が成立しやすい土壌があります。一方で、部品供給にとどまると最終的な顧客情報や収益機会を得にくいため、製品企画や保守サービスまで視野を広げる必要があります。
「誰が導入を止めるか」を先に把握し、データ活用で成果につなげる
独自の視点として、医療機器開発の成否は「何を作るか」より「誰が導入を止めるか」を先に把握できるかで決まると考えます。現場の医師が評価しても、情報システム部門が接続の安全性を懸念し、購買部門が保守費を問題視すれば採用は進みません。したがって実証実験では、精度や速度だけでなく、導入判断に関わる複数部門の評価項目を設定するべきです。政策支援も、試作費の補助だけでなく、臨床評価、規格適合、知的財産(=発明やデザインなどの権利)、販路開拓を連続して支える仕組みであれば、成果が事業化に届きやすくなります。
今後は、単体の機器よりも、測定、通信、解析、医療者の判断をつなぐ仕組みの競争が強まります。ただし、データを集めること自体が価値になるわけではありません。異常を誰がいつ確認し、どの行動につなげるのかを定義できて初めて、医療費の抑制や重症化予防という成果に結び付きます。開発企業には、技術資料だけでなく、導入後の業務手順、教育計画、費用対効果の試算を提示する力が求められます。
ビジネスへの影響
「技術」ではなく「費用を払う人が抱える課題」から企画する
企業にとって最初の実務課題は、開発テーマを「作れそうな技術」ではなく「導入主体が費用を払う課題」に絞ることです。企画段階で、利用者、購入者、承認を担う部門、保守担当者を分けて整理し、それぞれの困りごとと評価指標を作成します。医師が使いたい機器でも、看護師の作業時間が増えたり、情報システム部門の接続負担が大きかったりすれば、商談は止まります。初期の聞き取りには、診療科だけでなく、看護部、臨床工学部門、購買、情報システム部門を加えるべきです。
試作と実証を分けず、初期段階から評価項目を合意する
次に、試作と実証を別の段階として扱わないことが重要です。試作品の完成後に病院を探すのでは遅く、開発初期から実証先と、測定する成果を合意します。評価項目は精度だけでなく、操作時間、再測定率、記録作業の削減、アラートへの対応時間、故障時の復旧時間まで含めると、導入効果を経営層に説明しやすくなります。承認や認証が必要な機器では、必要な試験、品質管理、変更管理を早期に確認し、試験後の設計変更でやり直しが発生するリスクを抑えます。
保守や教育まで含めた収益モデルで、総費用を明確に示す
収益モデルも本体販売だけに限定しない方がよいでしょう。保守契約、消耗品、解析サービス、職員教育を組み合わせれば、導入後の支援を売上に変えられます。ただし、医療機関が負担する総費用を明確にしなければ、初期価格の安さだけで競争することになります。導入費、通信費、更新費、廃棄費まで示し、従来作業との比較で投資回収の道筋を示すことが必要です。中小企業は、単独で全工程を抱えず、大学、病院、認証に詳しい事業者、販売会社との役割分担を先に決めると、資金と人材の不足を補えます。